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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)167号 判決 1996年3月21日

東京都小金井市梶野町2丁目5番13号

原告

鈴木政夫

同訴訟代理人弁理士

井上春季

熊谷福一

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

松原至

青木良雄

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成2年審判第7220号事件について平成7年4月11日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「滑止め用敷板」とする別紙第一記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について、昭和61年12月12日、意匠登録出願(昭和61年意匠登録願第49044号)をしたところ、平成2年3月7日、拒絶査定を受けたため、同年5月1日、審判を請求した。特許庁は、上記請求を同年審判第7220号事件として審理した結果、平成7年4月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決をし、その謄本は、同年6月14日、原告に対し送達された。

2  審決の理由の要点

(1)ア  本願意匠に係る物品及び形態は前項記載のとおりである。

イ  これに対し、特許庁資料館所蔵(受入昭和40年10月7日)の外国カタログ集「Plant Engineering S Catalog File」1960年版に収録の外国カタログ「Multigrip 5e/Un」の表紙には滑止め用敷板の意匠(特許庁意匠課公知資料番号第4237724号、以下「引用意匠」という。)が示されており、その意匠の形態は別紙第二に記載のとおりである。

(2)  そこで、本願意匠と引用意匠とを比較すると、

ア 両意匠は、滑止め用の板に係るものであるから、意匠に係る物品が類似する。

イ 形態については、両意匠とも、平板の表面に、同形の繭形の小突起を、垂直方向と水平方向に一定の間隔を設けて多数配列し、全体としてみると、それを格子縞状に配列したという基本的構成態様において一致する(なお、引用意匠に係る敷板は、四方に連続する板材であるが、設置場所に応じて適宜切断して使用され、方向性も特にないものであるから、引用意匠としては、縦列が垂直になる状態で認定した。)。

ウ 他方、両意匠の相違点としては、引用意匠には、繭形の小突起の表面に面取り部があるのに対し、本願意匠には面取り部がない点において差異がある。

エ そこで、両意匠の上記の共通点と相違点を総合し、両意匠を全体として観察すると、上記の共通するとした基本的構成態様は、この種の意匠の属する分野にあっては最も看者の注意を惹くものであり、かつ、形態上の特徴を最もよく表すものといえるから、両意匠の類否判断を左右する要部をなすものと認められる。

これに対し、上記の差異点、すなわち、繭形の小突起の態様における差異(面取り部の有無)については、本願意匠に表された小突起も、この種の滑止め用敷板等の表面に施されたものとしては極めて一般的な態様のものといえ、何らその形態に特徴が認められるものではない。また、これを、視覚性という観点からみても、その差異は、小突起のみを特に注視した場合はともかく、形態全体としてみると、両意匠の前記一致するとした基本的構成態様の特徴ある態様に包摂されて目立たず、軽微な差異といわざるをえない。したがって、その差異は、両意匠の類否判断を左右する要素としては微弱なものと認められるから、前記基本的構成態様の共通点を凌駕するものとは到底いえない。

オ 以上のとおり、本願意匠は、引用意匠とは意匠に係る物品が類似し、形態においても、その特徴を最もよく表す要部が共通するものであるから、両意匠は類似するものというほかはない。

(3)  したがって、本願意匠は、意匠法3条1項3号の意匠に該当し、意匠登録を受けることはできない。

3  審決を取り消すべき事由

「審決の理由の要点」のうち、(1)、(2)アは認める。同(2)イのうち、小突起の繭形の形状が基本的構成態様に含まれることは争い、その余は認める。同(2)ウのうち、小突起の形状については否認し、その余は認める。同(2)エ、オ、(3)については争う。

審決は、本願意匠と引用意匠における要部の認定を誤り、両意匠が類似すると誤って判断したものであるから違法であり、取り消されるべきである。

(1)  本願意匠の要部は、滑止め用敷板に設けられた小突起の意匠的形状にあり、本願意匠と引用意匠は、その点において構成を異にし、美感を異にするから、類似の意匠とはいえない。

(2)  まず、両意匠の形態についてみるに、本願意匠は、平面形状が繭形の柱状の小突起を、平板上に格子縞状に配列したものである。

他方、引用意匠も、小突起を格子縞状に配列したものであるが、その小突起の形状は、面を中心とした形状であり、八角形の底面を有し、突起側面が基面から緩い角度で立ち上がり、それにより形成した小山状の台形状を呈している。また、小突起は、異なる直角方向に配置されている。

(3)  更に、両意匠における、「平板の表面に、同形の繭形の小突起を、垂直方向と水平方向に一定の間隔を設けて多数配列し、全体としてみると、それを格子縞状に配列した」という形状は、審決認定のように、意匠の要部を構成するものではない。

すなわち、意匠に係る物品を「仮設路面用敷鉄板」として平成元年1月13日に出願され、平成5年2月12日に登録された登録第867761号意匠(その内容は別紙第三のとおり。以下「登録意匠1」という。)及び意匠に係る物品を「鋼板」として昭和60年11月19日に出願され、平成5年12月24日に登録された登録第894424号意匠(その内容は別紙第四のとおり。以下「登録意匠2」という。)は、いずれも、その物品が引用意匠と類似する(登録意匠2の意匠公報においては、「鋼板」が覆工板等として用いられるものと説明されている。)ものである上、その基本的構成態様が、小突起ないし模様を、板上における「垂直方向と水平方向に一定の間隔を設けて多数配列し、全体としてみると、それを格子縞状に配列した」形状のものであって、引用意匠と共通している。

したがって、上記のとおり、引用意匠が存在するにもかかわらず、登録意匠1、2が登録された事実に鑑みるならば、小突起を「格子縞状に配列した」形状は、この種意匠の要部ではないものというべきであり、上記登録がなされた事実は、特許庁においても、上記形状を従来から要部とは考えていないことを示すものである。

(4)  そして、本願意匠の要部は、具体的構成態様としての小突起における繭形の柱状の形状にあり、その点において引用意匠とは美感を異にするものである。

ア 本願意匠の小突起の形状は、繭形の柱状をなし、比較的簡単な形状ではあるが、審決のように、「極めて一般的な態様のもの」と認めることはできない。すなわち、前記のとおり、登録意匠2の小突起の形状は、本願意匠と同様の繭形であり、本願意匠との相違点は、小突起の頂部に達するに従って断面積が小さくなる台形状とされている点にあるにすぎない。そのため、登録意匠2が登録されているということは、繭形の形状自体が「極めて一般的な態様のもの」ではないことを示している。

イ また、敷鉄板について、本願意匠のような形状の商品は、従来存在しなかった。これは、本願意匠における柱形状の突起を製造しようとした場合、これまでは、うまく型を抜くことができず、突起が欠けたり、実用上十分なスリップ防止性能を得る高さに製造することができなかったこと等による。

したがって、本願意匠において用いられるに至った「繭形の柱状の形状」は、意匠の要部となりうるものである。

ウ 登録意匠1は、突起の底面部分が八角形であり、頂上部、角側部を平面によりカットした突起形状を中心として構成された意匠であって、平面によるカット面が用いられている点において引用意匠と共通性がある。そして、登録意匠1は、側面のカット形状が引用意匠とは異なり、その形状が、小突起の配置に関する共通性を凌駕する創作性を有するものとして登録されたものと思われる。

したがって、登録意匠1が、引用意匠の存在にもかかわらず登録された事実に鑑みるならば、本願意匠のような敷鉄板に係る意匠分野の類似範囲は狭いものと考えるのが妥当である。

エ 登録意匠2は、小突起の形状が、前記のとおり繭形の台形状であり、本願意匠とは、小突起の大きさの点と、突起側面が傾斜面とされている点において相違している。そのため、本願意匠と登録意匠2とを引用意匠と対比した場合、登録意匠2は、小突起が台形状である点において、本願意匠より引用意匠に類似している。

したがって、特許庁において、登録意匠2が登録され、それが引用意匠の類似範囲に含まれないものと認定されたというべきである以上、本願意匠も、当然に引用意匠の類似範囲には属しないと考えるのが妥当である。

オ 被告が援用する道路用ブロックに関する意匠(乙第8ないし第15号証)は、基本的には技術分野を異にする上、本願意匠とはその形状を異にする。

(5)  以上のとおり、本願意匠の要部は突起の意匠的形状にあり、本願意匠と引用意匠は、その点において構成と美感を異にし、類似の意匠とはいえないものというべきであるから、この点を否定した審決には判断を誤った違法があり、審決は取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)の事実は認める。

同3(審決を取り消すべき事由)の冒頭の主張及び同(1)は争う。同(2)は認める。同(3)のうち、登録意匠1及び2の出願日、登録日、各意匠の構成、各意匠と引用意匠とが物品、基本的構成態様において共通することについては認めるが、その余は争う。同(4)ア、イは争う。同(4)ウは認める。同(4)エのうち、登録意匠2の小突起の形状が繭形の台形状であり、本願意匠とは小突起の大きさ、突起側面の形状の点において相違していること、そのため、本願意匠と登録意匠2とを引用意匠と対比した場合、登録意匠2は、小突起が台形状である点において、本願意匠より引用意匠に類似していることは認め、その余は争う。同(5)は争う。

2  審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1)  本願意匠及び引用意匠の基本的構成態様は、審決において認定したとおり、「平板の表面に同形の繭形の小突起を、垂直方向と水平方向に一定の間隔を設けて多数配列して、全体としてみると格子縞状に配列した」点にあり、また、意匠の要部は、上記のとおり、小突起の繭形の形状を含めた基本的構成態様にある。

そして、両意匠は、「その形態上の特徴を最もよく表す要部が共通する」ものであるから、類似するものというべきである。

(2)  すなわち、審決は、本願意匠と引用意匠とを対比するにあたり、両意匠の形態の大部分を占め、形態全体を秩序づける基本的部分を構成する態様を捉えて、それを基本的構成態様としたものであり、また、突起の印象を決定づける小突起の基本的な形状(「同形の繭形」)までを基本的構成態様に含まれるものと認定したものである。

しかしながら、意匠の類否判断にあたっては、意匠のどの構成態様、構成要素が、看者の注意を惹き、意匠の特徴を表しているか等の観点から、意匠の要部を認定判断することが重要であり、類否判断のための意匠の要部の認定に誤りがなければ、基本的構成態様の認定に差異があっても、意匠の類否の結論において変わりがないものである。

(3)  そこで、両意匠における要部についてみるに、審決においては、前記のとおり、両意匠の基本的構成態様を意匠の要部と認定したものであるが、この中には、小突起の印象を決定づける小突起自体の基本的な形状である「同形の繭形」までを含めており、この点において、原告の要部についての主張と相違しない。

そうすると、意匠の類否についての審決の認定判断と原告の主張との違いは、平板の表面に、小突起を「垂直方向と水平方向に一定の間隔を設けて多数配列して、全体としてみると格子縞状に配列した」という態様が要部となるか否か、また、小突起の基本的な形状以外のどの範囲のものまでを意匠の要部として評価すべきかという点にあるものということになる。

(4)  その点について、両意匠における「平板の表面に同形の繭形の小突起を、垂直方向と水平方向に一定の間隔を設けて多数配列して、全体としてみると格子縞状に配列した」という構成態様からみるならば、両意匠の小突起は、平板全体からみてかなり小さなものであり、かつ、平板の全面に多数配列されているものであることが明らかである。したがって、この多数からなる小突起が、平板の表面にどのような構成により配置されているかが、個々の小突起の形状に優先して、平板の表面模様全体の美的印象を決定づけているものというべきである。

そこで、審決は、小突起の配列による構成態様を、両意匠における欠くことのできない要素として位置づけ、かつ、これを構成している小突起自体の形状についても、その小突起の視覚的印象を決定づけている小突起の基本的な形状、すなわち「繭形」までを含めて意匠の基本的構成態様とし、これをもって意匠の要部となし、「この種の意匠の属する分野にあっては、最も看者の注意を惹くところのものであり、かつ、形態上の特徴を最もよく表すものと言えるので、両意匠の類否判断を左右する要部をなすものと認められる。」と認定判断したものである。

(5)  なお、この種の態様をなす意匠の要部について、審決と同様に解して登録された事例としては乙第1ないし第7号証(枝番を含む。登録第106600号意匠その他についての意匠公報)等が存在し、これに当てはまらない事例として登録意匠1及び2が存在する。

(6)  また、原告は、本願意匠の小突起における「繭形の柱状の形状」が、「極めて一般的な態様のもの」ではなく、本願意匠の要部をなすものである旨を主張する。

しかしながら、繭形で、かつ頂部を平坦面とする偏平な略柱状を呈する突起は、本願意匠の出願前から既に普通に知られたものであり(乙第8ないし第15号証参照)、よく見うけられる態様である(例えば、駅のホーム、歩道等における点字ブロックの突起等)。

したがって、本願意匠の小突起の形状については、原告の主張する性能効果も含めて、同様とする態様が既に存在することから、上記形状は、その性能、効果、形態のいずれにおいても格別なものが認められず、審決が、「形態全体としてみると、前記一致するとした基本的構成態様の特徴ある態様に包摂されて目立たず、軽微な差異といわざるを得ない。」と認定したとおりであり、その判断に誤りはない。

(7)  以上のとおりであるから、審決には原告主張の違法はない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1及び2の各事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、本願意匠に係る物品及びその形態、引用意匠に係る物品がいずれも審決記載のとおりであり、更に、引用意匠の形態が、審決記載の外国カタログ集に掲載された別紙第二のとおりのものであること、そのため、両意匠においては、意匠に係る物品が類似するとともに、その形態についても、平板の表面に、同形の繭形の小突起を垂直方向と水平方向に一定の間隔を設けて多数配列し、全体としてみると格子縞状を呈している点において一致することについても、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1  まず、原告は、引用意匠における突起の形状が審決認定のとおりであることを否認し、審決における両意匠の相違点の認定を争っている。

しかしながら、引用意匠の小突起について、それが、面を中心とした形状であり、八角形の底面を有し、突起側面が基面から緩い角度で立ち上がり、それにより形成された小山状の台形状を呈していること(「審決を取り消すべき事由」(2))については当事者間に争いがない。

上記事実に、別紙第二の記載を合わせ考慮すると、引用意匠の繭形の小突起の側部は、傾斜のある八面の平面に面取りされ、頂上部も平面とされていることが認められるから、審決において、「引用の意匠は、繭形の小突起の表面に面取り部がある」と認定したことに誤りはないものというべきである。

一方、前記1における争いのない事実からみるならば、本願意匠における小突起には上記のような面取り部が設けられていないことが明らかである。

そうすると、両意匠は、小突起の面取り部の有無の点において差異があるものであり、その点を相違点とした番決の認定は正当というべきである。

2  続いて、原告は、本願意匠の要部は小突起の意匠的形状(繭形の柱状の形状)の点にあるにもかかわらず、審決が、両意匠の小突起の形状の違いによる美感の差異を考慮せず、両意匠を類似のものとしたことは判断を誤ったものと主張する。

(1)  そこで検討するに、前記第1における当事者間に争いのない事実及び前記第2、1の事実によれば、両意匠は、平板の表面に、同形の繭形の小突起を、垂直方向と水平方向に一定の間隔を設けて多数配列した構成のものである点において一致し、その小突起の形状が本願意匠においては表面に面取り部がないのに、引用意匠においては面取り部が設けられている点において相違するものであるが、小突起の大きさは必ずしも明らかでない。

しかしながら、両意匠とも、物品を滑止め用敷板とし、その表面に設けられた小突起は滑止めとしての機能を有するものであるから、個々の突起は、いずれもこく小さいものであることが明らかであり、それが敷板の表面全体に、縦に並べた列と橫に並べた列を交互に繰り返す形で多数配置され、全体としては格子縞状をなしているものである。

(2)  以上のような両意匠の形態及び両意匠に係る物品の性質(「滑止め」を目的とするものであること)を考慮するならば、両意匠における意匠の骨格をなす構成態様、すなわち基本的構成態様は、いずれも、平板の表面に多数の小突起を設け、それを垂直方向と水平方向に一定間隔をもって配列したところにあるものというべきであり、個々の小突起の具体的な形状(小突起の全体的な形及び小突起の表面における形状等)は、意匠の細部にわたる態様、すなわち具体的構成態様にあたるものと認めるのが相当である。

そうすると、本願意匠と引用意匠は、基本的構成態様において共通するとともに、具体的構成態様のうち、小突起が同形の繭形とされている点において共通するものというべきである一方、具体的構成態様としてのその余の小突起の形状として、本願意匠が、平坦な頂上部を有する繭形の柱状の突起を平面部から垂直に立ち上がらせた態様としている(別紙第一参照)のに対し、引用意匠が、同様の突起の側部を、傾斜面により、前後、左右、斜め方向の八面に面取りした態様としている(前記第2、1、別紙第二参照)点において、差異があるものというべきことになる。

(3)  以上によれば、審決が、両意匠の基本的構成態様として、平板における小突起の配列形態とともに、小突起自体の全体的な形(「同形の繭形」)を含むものと認定したことは、相当ではないものというべきである。

しかしながら、本件において、更に、両意匠の類否を判断するにあたっては、意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を通じて、看者(取引者、需要者)の注意を引く部分、すなわち意匠の要部における美感の異同についての検討を要するものであり、意匠の類否はそれにより決すべきものと解されるから、審決における、その後の意匠の要部についての認定判断自体に誤りがなければ、前記の基本的構成態様及び具体的構成態様の認定の誤りは、その結論に影響を及ぼさないものと解される。

(4)  そこで、両意匠における要部及び両意匠の美感の差異について検討するに、

ア 両意匠の形態が前記第2、2(1)(2)のような基本的構成態様と具体的構成態様からなるものであり、また、本願意匠におけるような繭形の突起の形状自体も、成立に争いのない乙第8号証ないし第15号証(いずれも本願意匠の出願以前に出願された意匠、実用新案、特許についての意匠公報、公開実用新案公報、公開特許公報)から認められる、道路のいわゆる点字ブロックの形状等に照らすならば、格別新規な印象を与えるものとはいい難いこと(この点について、原告は、上記乙号証記載の意匠は、技術分野を異にし、かつ本願意匠とはその形状を異にする旨主張するが、歩行者等の足下に敷設されて、滑り止めの機能をも有する点において、本願意匠及び引用意匠と技術的に近接した要素を持つものであり、その形状も繭形の突起形状である点において共通する。)、両意匠に係る物品はともに「滑止め用敷板」であるため、看者においては、上記物品について、その表面の形状を、例えば目の高さから足元までの間程度の一定の距離を置いた位置から、一定面積を有する全体として観察するものと考えられること等を考慮するならば、両意匠において看者の注意を引く部分は、そのいずれについても、前記のとおり両意匠に共通する基本的構成態様部分と、具体的構成態様中の小突起の基本的な形状部分(同形の繭形)までであると考えられ、具体的構成態様中の、両意匠において相違する各小突起の細部の形状部分(表面における面取り部の有無)については、その印象が、上記共通部分のもたらす印象に比べて特に目立つものとはいえず、上記共通部分から生じる印象を左右し、それを凌駕するまでのものではないと認めるのが相当である。

イ そうすると、両意匠の要部は、前記の基本的構成態様と具体的構成態様のうちの小突起の繭形の形状の点にあるものというべきであり、他方、小突起の更に細部にわたる具体的な形状の差異(表面における面取り部の有無)については、それが、両意匠の美感に対して与える影響は僅かなものであるとして、両意匠の要部を構成するものと認めることはできないものといわざるをえない。

(5)  そうであれば、本願意匠と引用意匠とは、意匠の要部においてその構成態様を共通にするものであるから、類似するものというべきであり、両意匠の要部について上記と同様の認定をした上、同様の結論に至った審決は、結局正当なものというべきである。

(6)  なお、この点について、原告は、登録意匠1及び2が登録されていることを理由に、本願意匠及び引用意匠の要部が小突起の具体的な形状にあるものと解すべきである旨を主張し、また、登録意底1及び2については、原告主張のとおり意匠登録がなされ、それらの意匠の各構成態様も原告主張のとおりであることについては、いずれも当事者間に争いがない。

しかしながら、本願意匠及び引用意匠の要部についての認定判断は前記のとおりであって、登録意匠1及び2が登録されていることによって左右されるものではないから、原告の上記主張は採用できない。

第3  以上によれば、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙第一

本願の意匠

<省略>

別紙第二

引用の意匠

<省略>

別紙第三

<省略>

別紙第四

<省略>

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